不動産を購入する際には、諸々の費用が掛かります。
まずは、物件本体価格、
そして名義を買主様に変更するため登記費用、
不動産を買われた方に掛かってくる不動産取得税、
お家が燃えた時などのための火災保険代、
住宅ローンを組まれる方は、これらに加え、銀行でのローン手続き費用などが掛かります。
今回は、この中の火災保険のお話です。
当時、勤務していた不動産会社では、火災保険の斡旋数もノルマ化されており、
何件斡旋出来たかは、成績にも反映され、成績上位者は表彰されておりました。
そんな中で、当時私が所属していた支店の店長は、
火災保険の斡旋数トップ獲得を至上命題として、
各営業(と言っても2人しかいません)に指示しておりました。
店長「おい、いま火災保険の獲得数は何件だ?」
営業「〇〇件です。」
店長「なんだそれは、全然足りないじゃないか、どうするんだ」
営業「獲得数を増やします」
店長「まずは、いま取引中の顧客全員から火災保険を必ず、必ず、絶対に獲得しろ」
営業「わかりました。」
店長「なんなら、そこを歩いている通行人から火災保険もらってもいいんだぞ、分かったか」
営業「・・・はい」
店長「はい、って言ったな、じゃあ、今から行ってこい。」
営業「・・・」
そんなやり取りがあった日から数日後
営業が担当している顧客の来店がありました。
気に入った物件が見つかり、もう契約も終わった温厚そうな幸せそうなご家族です。
店長からの火災保険獲得の至上命令を受けた担当営業は意気揚々とお客様に向かいます。
営業「火災保険のご案内をいたします。」
顧客「火災保険は、しばらく考えさせてください。」
どうやら、火災保険獲得のファーストコンタクトは断られたようです。
それを見ていた店長は、烈火の如く怒ります。
店長「何をしてるんだ、すぎもー、火災保険を断られるとは何事だ。」
営業「すみません、引き続き案内していきます。」
店長「当たり前だ、絶対に取れよ、絶対にだ!」
営業「・・・はぃ」
担当営業は、この時点で、すでに火災保険はもらえないと感じていたそうです。
が、しかし、そこから店長の命を受けた担当営業の怒涛の攻撃が始まります。
お客様と電話をすれば「火災保険を」、顔を合わせれば「火災保険を」、と。
契約後、引き渡しまでお客様と営業のやり取りは多岐にわたります。
何かしらの用事で電話や面談を行います。
ましてや、ローンを使われる方は、ほぼ毎日です。
毎日、毎日、「火災保険を」と言われれば、さすがに温厚な方でも
我慢の限界を超えます。
担当営業も、それを感じ取り店長に進言します。
営業「このお客様は、おそらくもう火災保険はうちでは頂けないと思います。」
当然、店長は許しません。
店長「あかん!あかん!あかん!絶対にあかん、熱意が足りないから聞いてもらえないんだ、
もっと熱意をもって火災保険を案内しろ。お客様のためやろ。分かったか」
店長の熱意に担当営業も観念し、生気のない土気色の顔で答えました。
営業「分かりました・・・」
それからも、火災保険獲得のための努力は続きます。
ある電話でのやり取りはこのような感じだと聞いてます。
営業「・・・以上が、決済の必要書類となります。」
顧客「分かりました。」
営業「さて、それでは火災ほけ」
顧客「ガチャ、ツー、ツー、ツー」
営業「店長、切られてしまいました。」
店長「お前の熱意が足らんからやーー!(以下略」
もう、この時点では、お客様もあまりにも火災保険と言われるので、
売り側担当(他支店)の営業に電話をするようになっていたそうです。
そんなやり取りが続く中、いよいよ決済(引渡し)の日が来ました。
泣いても笑ってもこれが、このお客様から火災保険を獲得できるラストチャンスです。
しかも、幸いなことに、決済場所は当支店です。
大チャンスです。
ここで獲得出来なければ、もうチャンスは永遠にありません。
店長に気合が入ります、売り側(他支店)の営業も見ています。店長はやる気スイッチが入っています。
担当営業も、後ろで店長が見ているので、しょうがなくやる気のある振りをします。
決済は、つつがなく終わりました。
さあ、ラストチャンスタイムが始まりました。
営業「お客様、火災保険を」
顧客「・・・(無言で店を出る)」
店長「おい、何をしてるんだ、お客様が帰ってしまうじゃないか」
営業「お客さまぁー!」
店長「追いかけろー!!」
私と他支店の営業も、お客様、担当営業、店長のあとに続き
様子を見に行きます。
お客様は、もう自動車に乗り込むところです。
担当営業が追いかけます。
担当営業は、お客様の車の運転席側で
半開きになったパワーウィンドに手を掛け
こう叫びました。
営業「お客さまぁ、火災保険をぉぉぉ!」
顧客「うるさいっ!」
ズルズルズル、、、
担当営業が少し引きずられています。
パワーウィンドに手を挟まれています。
担当営業だけでは足りません。
店長が続きます。
店長「お客さまぁ、火災保険をぉぉぉ!」
顧客「離して!!」
ズルズルズルズルズルズル、、、、、、
今度は、2人して引きずられています。
店長、担当営業「あぁ・・・、火災保険・・・」
二人は手を離してしまいました。
そのまま、お客様は帰ってしまわれました。
熱意が少し足りなかったようです。
今回は、火災保険を頂けませんでした。
その様子を見ていた、売り側(他支店)の営業と私
売り側(他支店)の営業「自分のとこ(支店)、ほんまアホやなぁ」
私「・・・」
今回は失敗してしまいましたが、その甲斐もあり、
この担当営業は見事社内ナンバーワンを取ることが出来ました。
店長の心が温まったお話でした。