随分と昔の出来事ですが、まだ私が駆け出しの頃、購入希望のお客様を車で数件の戸建の内覧を行っていた時のエピソードです。
夏の日差しがじりじりと照り付ける暑い日だったと記憶しております。案内日の前日に電話があり、見たい物件が数件あるとの事でした。まずご来店時に違和感を覚えたのは、お客様は中年の男性の方で、一瞬、子供を抱きかかえているのかと思ったのですが、毛の長い大きな目をした女の子の人形を抱いて来店されました。もちろん瞬時に、その事には触れてはいけないと思い、私もプロです。吹き出しそうな感情を抹殺し、人形はいないと心に言い聞かせ接客に徹しました。そして少しのお話のあと、私の車のほうに移動し後部座席のドアを開けて、座席に座っていただきました。するとその人形を横においてシートベルトを締めてきちんと座らせた状態にして、なにかごそごそと小声で話しかけておられました。その後、物件を見るたびに人形と一緒に内覧され、幸いにも全て空家だったので、この光景をご覧になった売主さんはおりませんでした。物件を見て車に乗る度に『どうだった?』と感想を聞いておられるようでした。案内が終わり、事務所に戻ったときも接客テーブルの椅子に人形を座らせ、時折話しかけておられました。 あまり気に入った物件がないとの事でしたので話はそれで終わったのですが、その後はそのお客様には特に連絡を取らず、その後もお問合せはありませんでした。
特に落ちの無い話ですが、チョッとしたエピソードです。